心の丸窓(29)
お酒について

☞「心の丸窓」は心の杜の医師・心理師による心の診療に関するコラムです。

 2015年最初の心の丸窓です。皆様どのような新年を迎えられましたか? 忘年会や新年会など、年末年始はお酒と関連する行事が多くなります。今回はお酒についてのお話です。

 現存する一番古いお酒の記録は、紀元前数千年前のもので、お酒と人間の付き合いはかなり昔からあるようで す。お酒に関する有名な言葉に「酒は百薬の長」というのがありますね。適量の酒はどんな良薬よりも効果がある、とお酒の効能を説いたものです。確かにお酒
には、緊張を緩和させたり、食欲を増進させたりと良い面があります。ただし、これは「適量」の場合にのみ言えることです。では、日本人にとって「適量」の お酒とはどのくらいの量なのでしょう? 厚生労働省の「健康日本
21」によれば、「節度ある適度な飲酒」は、アルコールにして1日平均20g程度とされています。つまりビールだと500ml、日本酒で1(180ml)、ワインでグラス2杯程度(200ml)、焼酎半合(90ml)くらいとなります。

 この「適量」を越えてしまうと、お酒の害の方が目立ってきます。「徒然草」には、「百薬の長とはいへど、 よろずの病は酒よりこそ起れ」とあります。お酒の害としては、身体に対しては、肝臓への障害、脳卒中や心臓病の危険性を高めるなどといったもの、心(脳)
に対しては、不眠症やアルコール依存症などがあります。「寝酒」という言葉があるように、お酒は眠りを良くするのではないか? と思われる方もいらっしゃ るかもしれません。確かにお酒は寝付きを良くしますが、眠りは浅くなり、翌日の集中力が弱まってしまいます。アルコール依存症におちいると、大事なことが
あってもお酒を飲むことが最優先となり、常にお酒を求めてしまう精神状態と、お酒が抜けた時に現れるイライラや不眠、さらには幻覚を伴う意識障害といった離脱症状などが見られます。また長期にわたって飲酒を
続けることで、栄養障害とそれによる記憶や意識、あるいは見当識の障害(自分がいつどこで何をしているかがわからなくなる状態)あるいは小脳失調など、元 には戻らない重たい神経障害に陥ることもあります。

 今回の記事では、お酒が有する長短両面について述べました。是非、「適度」なお酒との付き合い方を心掛けたいものです。

さてここで、お酒と脳に 作用する薬の関係について一言述べて終わりにしたいと思います。精神科、心療内科で処方される薬のほとんどは、お酒と併用することで効果が不安定になるこ
とが知られています。具体的には、翌日まで効果が持ち越して眠気が残ったり、転倒して怪我をする恐れがあったり、呼吸抑制による低酸素状態が起こる致死的 危険もあります。このように、お酒と脳に作用する薬を併用するのはさまざまな危険をはらみますので避けるようにしましょう。

 

 

(湖底の月 記)

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