心の丸窓(68)世界的パニック時における被害妄想的気分について

☞「心の丸窓」は心の杜の医師による心の診療に関するコラムです。

私たちは脅威に直面すると、そしてそれが強すぎるならば、理性やそれに対処する能力を失います。そして私たちの心は未熟な状態に退行します。この状態を精神分析家のクラインは妄想分裂ポジションと呼びました。赤ん坊が空腹や痛み、おむつが濡れているなどの不快感を感じる時、彼らは外界の何かから攻撃されていると感じているのではないかと考えたのです。この心性は大人になっても私たちの心の中に残っていて、特に脅威に直面した時、私たちはこのような状態に陥ります。

しかし私たちは、ある一定の条件が整えば、大人の、理性的に考えることのできる能力を回復することができます。回復の速さはその人の成熟度、精神的な健康状態、周囲の安心できる環境などいくつかの要因によって異なります。妄想分裂ポジションから回復できない時、人は不安で、疑い深くなり、警戒状態となり、被害妄想的気分などを感じます。

そのような状態に対する反応の仕方も人によって様々です。ある人はその状況に対して万能的に対処しようとしますが、これは軽躁状態につながるかもしれません。別の人は敵がどこか外にいて彼を攻撃しようとしていると信じるかもしれません。例えば、ある別の国が意図的にウイルスを作って自分の国を攻撃しようとしているのだ、と信じるかもしれません。あるいはスケープゴートを作ることにつながることもあります。つまり、集団のメンバーの一人が、内部から集団を脅かしているのだと信じられてしまうのです。このように集団内で信じられてしまうと、お互いにその確信を強め合うことで集団ヒステリーのような状態に陥り、大人の理性的な心性、言ってみれば「正気」の回復はさらに困難となります。

「コンテイジョン」という映画は人々が世界的なパンデミックによるパニックにどう反応し行動するかを示しています。私たちがいかに気づかないうちにデマを信じ支配されてしまうかを描き出します。それは私たちが今でも妄想分裂的心性を心の中に持っていて、それに支配されてしまう誘惑がいつも存在するからなのです。簡単ではないですが、私たちが自分自身に対する客観的な視点を保ち、「Stay calm and carry on (平穏を保ち、普段の生活を続けよ、という第二次大戦時にイギリス政府が出したポスターの文句)」を守ることが大切だと、私は思います。

 

(具眼 記)