心の丸窓(59)
思うようにならぬ日々を送るときの心得 ~「時の性(しょう)を尽くす」~

☞「心の丸窓」は心の杜の医師・心理師による心の診療に関するコラムです。

  高校時代の仲良しの少し前の話です。還暦間近の彼女は、仕事に、そしてある運動系の習い事にと忙しく充実した日々を送っていました。さらに連休明けの忙しさも加わり、さすがの彼女も疲労困憊。そうしたところ、とうとう帯状疱疹になってしまいました。帯状疱疹は、心身の疲労が昂じ免疫力が低下した時に生じるウイルス性の疾患で、安静休養が何より大事になります。彼女も仕事量を抑え、大好きな習い事も我慢の生活を強いられることになりました。痛みや怠さが数日して軽くなると、ふと彼女は普段ゆっくりできないでいる料理をしてみようと思い立ったと言います。また普段は走っている遊歩道もゆっくり散歩して、空の青さや新緑、紫陽花の色を堪能したそうです。

彼女は病気になることで、普段の生活を送ることができなくなりました。それでも、その時にできることを思い立ち楽しむことができたのです。「できないこと」に囚われるのではなく、「できること」に心を留めて「思うようにならない時」を能動的に過ごす、これを森田療法(1920年代に精神科医森田正馬が創始した神経症に対する精神療法)では、「時の性を尽くす」と言うそうです。                       ( MUSASHI:記 )

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