心の丸窓(18)ストレス・コーピングと精神療法(カウンセリング):前編

☞「心の丸窓」は心の杜の医師による心の診療に関するコラムです。

 「ストレス・コーピング」という言葉をご存知でしょうか。これは米国の心理学者ラザルス博士が考案した心理学用語で、「ストレス対処(行動)」と訳されるものです。

 そもそもストレスとは、物体あるいは人間に外部(環境)から加わった何らかの力・作用(これをストレッサーと呼びます。人間に関していえば、たとえば外気温の上昇や下降、細菌の感染、あるいは社会的作用としての就職や転勤など)によってその内部に生じた「歪み」、あるいは「変化」のことです。

 一般的にストレスといえば社会的場面が思い浮かぶでしょう。たとえば会社員のAさんが上司から、量的にも内容的にもかなり負担の大きい課題を任されたとします。Aさんはそれを脅威に感じ(それがストレッサーとなり)、にわかに不安が広がります。不安に伴い動悸や食欲の低下、あるいは睡眠障害が生じ、その状況が長引くうちに気分は憂うつになり、出勤することが苦痛でたまらなくなります。それらが高じれば適応障害やうつ病に陥ることもあります(→心の丸窓3、5、6、10、11、12、13、17)。こうしてAさんの中に生じるさまざまな変化をストレスと呼びます。人は本能的にそれらに適応しようとし、その際にとる対処をストレス・コーピングと呼ぶのです。

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 ストレス・コーピングは問題中心型コーピング(problem-focused coping)と情動中心型コーピング(emotion-focused
coping)
に分けられます。前者はその人と環境との関係の在り方を実際に変化させようとする対処です。たとえばAさんが上司に対して、任された課題が過重なのでそれを軽減してもらおうと相談したとすると、それは問題中心型コーピングと言えます。一方実際の状況ではなく、状況に対するその人の捉え方を変化させることで対処するのが情動中心型コーピングです。Aさんが、当初は無理と感じ不安になったものの、これまで自分が成し遂げて来た力に信頼を置き、いざとなったら同僚にも手伝ってもらうことで何とかこなせるだろうと、前向きに事態をとらえ直すことで不安やそれに伴う心身の不具合を解消したとすると、それは情動中心型コーピングが上手く機能したと言ってよいでしょう。このように双方のストレス・コーピングを上手に用いることができるか否かが、その人のストレスへの強さを左右するのです。またストレス・コーピングには意識的な水準のものと、無意識のうちに用いられるものとがあり、実際にはとても複雑に関連し合いながら機能しているのです。

 精神科での治療は、薬だけでなく、生じている問題や困難がどのようなストレッサーとストレスに基づくものなのかを、患者さんと担当医が協力して明らかにし、より適切なコーピングをオーダーメイドで探って行くプロセスと言ってもよいでしょう。その際医師には、その方の心や人間関係の在り方、あるいはコーピングの様相を細やかに分析し理解していく視点、力量が求められます。またこれらのコーピングに主眼をおき、より本格的に事態を解決していく取り組みとして精神療法(カウンセリング)がありますが、それについては後編でお話ししたいと思います。

(カラマツ林の梟)

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