心の丸窓(66)
知足ということ

☞「心の丸窓」は心の杜の医師・心理師による心の診療に関するコラムです。

去年のいつぞや、ある政治家の「身の丈」発言が物議をかもしたことがありました。本来「身の丈」とは「身長」のこと、転じて「無理をせず、力相応に対処すること」の意味です。ここで問題になるのは、「力」の程度の見積もりになります。

そこで重要になってくるのが、自分の「力」「可能性」を適切に見積もる能力です。私たちは成長の過程で、周囲の人々(主に養育者である両親)から自分を正当に認めてもらい褒めてもらえていると感じることによって、「自分はこれで大丈夫だ」という健康な自尊感情(丸窓61)を養うことができます。そして、「自分はこうなりたい」という現実的な目標(これを自我理想と呼びます)を持ち、それに向けて無理ない範囲で努力をしていくことが可能となっていきます。

周囲からの妥当な反応が得られない場合、その子供は自分に対して無理のある過剰に壮大な達成目標を立て、生涯それに向けて際限のない努力を続け、その果てには燃え尽きてしまうかもしれません。あるいは努力自体を放棄して、目標のない空疎な日々を送ることもあるでしょう。

「知足」とは「自らの分をわきまえて、それ以上のことを求めないこと。分相応のところで満足すること」の意味です。健康な自尊感情を持てている人は、この「知足」の心境に自ずと至るでしょうし、それは達成可能な目標に向けて無理のない努力や研鑽を積む姿勢をももたらすことになります。

 

(MUSASHI:記)